私と寫眞 第一夜 「Ai NIKKOR 50mm f/1.8S」
author : 営業開発部 佐藤芳孝
Ai NIKKOR 50mm f/1.8S
1980年に発売された今ではオールドレンズの類。
ワイフの実家で20年以上放置され、カビにまみれガラクタ同然だったそれを貰い受け、知識も無く分解し、メガネクリーナーとベンジンで適当な清掃をした。
レンズは一昔前のニコンらしいデザイン。
絞り羽根は7枚で円形絞りではない。
絞りは開放f1.8の次だけ1/3刻みでf2となるが、以降は最小絞りのF22まで1段刻みとなる。
重量は175gと非常に軽量でコンパクト、現行のGタイプ50mmと比べても10g軽い。レンズ面はマルチコートが施されている。
発売当時の価格は10,500円、今でも5,000円も出せば程度の良い中古が手に入る。
素人が分解清掃をしたので、光軸のズレなど発生している可能性があるが、シューティングレポートをしてみたい。
35年前のレンズとはいえ、不変のFマウント。最近のデジタル一眼にも装着ができ、絞り優先AEでの撮影も可能である。
ボディに装着すると、そのパンケーキぶりに少し驚く。現行ラインナップにパンケーキが無いだけに、いつも使っているボディではないのではないかという錯覚すら覚える。
マニュアルレンズであるため、当然AFは使えない。スプリットマイクロ以外のフォーカシングスクリーンでピントを追い込むのは、AFに慣れた体に低倍率ファインダーでは些か困難。
ヘリコイドは抜け、ピントリングはスカスカ、このピーキーなじゃじゃ馬に35年の経過を感じよう。
まずは開放から
ピント面には芯があり、予想に反して今風の写り。
やや色収差はあるが、現代のレンズでもこんなものだろう。
背景ボケはややうるさい。
少し絞って引いてみる。
色乗りも悪くなく、等倍で見なければピントが甘い以外に大きな粗は見つからない。
最短撮影距離の0.45mまで開放でぐっと寄る。
背景との境目に不自然な線が出るが、どことなく現代のレンズとは違い、オールドレンズの片鱗を感じられるボケ味か。
では、明るく広い所での無限遠はどうだろう。
まず開放
縮小画像では分かりづらいが、全体的にかなり緩い描画。発色は悪くない。
周辺減光が少ないのは少し驚いた。倍率色収差はあるものの、周辺の流れも少なく、さすが単焦点である。
続いて、F11まで絞り込んでみる
全域で緩さが消え、すっきりした写りに。
期待したほどのシャープさはなく、どことなくフィルム感のある趣き
開放との等倍切り出しの比較
少し歩いて街角を切り取ってみよう。
50mm それは始まりと終わり
50mmの画角は人が日頃見ている画角と同じとよく言われるが、私的には一点を注視している時の画角という表現のほうがすわりがよい。
普段の撮影とは違い、ピントリングを回し、ピントを追い込むというワークが入るだけで、体で被写体を捕らえ、対峙し、時にそっと語りかけることで、一枚一枚を普段よりも丁寧に撮っている感覚を味わう。
このレンズが出た当時、フィルムという像を見るまでに幾多のプロセスを踏むシステムで写真を楽しんでいたということを考えると、とてもスローライフで贅沢な趣味に思えてくる。
さて、今夜は左手に微かに残るヘリコイドのトルクに喜びを感じながら、バーボン片手に夜更けの波止場を歩くとしよう。
撮影地:妙見寺(稲城市)、港区芝